des jours du petit bonheur （翔→千里） 2009/05/25__00:07

兄弟ものドラマと言うと、やっぱり「ひとつ屋根の下」が有名なのでしょうか。あの時のヘタレ末っ子から、今の素敵な時田さんは想像できません。組！の土方役以来の衝撃です。

ちなみに、私のベスト兄弟ものドラマは、「もしも願いが叶うなら」。Ｎ山Ｍ穂と浜Ｄ雅Ｔが血のつながらない兄弟をやってました。がっつり恋愛コメディで面白かったなぁ。アレをアタ男で再現してみようかな、と思ったり思わなかったり。
まあ、「もしも～」に限らず、色々とパロディをやるのも楽しいかもしれません。そのうちに。

今回のＳＳも懲りずに翔→千里です。なんかちょっと楽しげな感じ。「ＳＳを読む」からご覧ください。

少し離れたダイニングから、兄弟たちのにぎやかな声が聞こえてくる。
きっと、いつものように、猛と智が喧嘩でもはじめて、
それを優がなだめていたところへ、風が横から茶々を入れ、
明は明で余計なひと言を言って、状況を悪化させているに違いない。
翔は肯定的な溜息をついて、満月の夜空を仰いだ。
彼の隣りでは、千里が同じように空を見上げている。

des jours du petit bonheur

翔は最近、このバルコニーで千里と一緒になることが多くなった。
かつては翔だけの空間だったが、「ここからの風景が好きなの」と笑う千里を拒めず、
いつしかそこは翔と千里の、二人の空間となってしまった。
しかし、秘密の場所を知られてしまったものの、翔は不思議と嫌な気持ちはしなかった。
特別な空間を共有する相手が、他の誰でもない、千里だからかもしれない。

「ねぇ、翔」
「ん？」
「翔は、この家に来て幸せ？」

それは、あまりにも唐突だった。
基本的に、バルコニーにいる間は、お互いにあまり言葉を交わさない。
それが暗黙のルールのようになっていたが、
千里はふと、そんな質問を翔に投げかけたのだった。

「───どうしたんだよ、急に」
千里の意図がつかめず、翔が聞き返すと、千里は小さく笑う。
「どうしたって訳でもないんだけど・・・ちょっと聞いてみたかっただけ」
「なんだそれ」
「だって私は───」
「"私"は？」

「私は幸せだから。一億円じゃ足りないぐらいの幸せを、貰っているような気がする──」

まるで天使のような笑顔をこぼして、千里は静かに告げた。
いつもの彼女とは違う、どこか儚げで、それでいて落ち着いた雰囲気。
月の淡い光に照らし出されて、神々しささえ感じる。
翔は、そんな千里に見惚れそうになりながら、それでもグッと理性で抑えこんだ。
しかし、ひとり必死な翔に、無邪気な天使は尚もやさしい笑みを称え、
今度は翔の顔を覗き込んで、質問を繰り返す。

「翔は幸せ？」

あまりにも近過ぎる距離に、思わず顔を背ける翔。
だが、すぐに落ち着き払って、否、落ち着いているように装って、
いつもの人懐こい笑顔で千里に向き直った。
「風変わりな長男がいて、破天荒な次男がいて、自信喪失気味の三男に、口の悪い四男と、生意気な五男がいて──それで、気が強くてガサツで不器用な"母親"がいて、幸せかって？」
真実の思いとは裏腹に、千里をからかっているような翔の口調。
こんな態度しか取れない自分を恨めしく思いながら、翔は千里の反応を待つ。
すると、翔の心情を分かるはずもない千里は、口を尖らせて言った。
「ちょっと！私だけ多くない？"気が強い"だの、"ガサツ"だの、"不器用"だのって」
「そう？」
わざと意地悪な笑みを翔が浮かべると、千里はいよいよ頬を膨らませて言い放つ。

「明日の朝ごはん抜き！」

それまで、すべての世界から切り離されていた二人の淡い空間が、一気に原色を取り戻した。
気がつけば、遠くで聞こえていた兄弟たちの声は、いつの間にか激しさを増している。
しかも、「千里さ～ん」と優の助けを求める声。
千里は、「今行く～」と元気よく返事をしてから、
翔には「べ～」と舌を出して、慌ただしく室内に戻って行った。


ひとりバルコニーに残された翔。
しばらくすると、兄弟たちの叫びとともに、千里のどなり声が聞こえてきて、
「ああ、また奴らが何かやらかしたな」と笑う。

愛すべきダメ兄弟と、誰よりも愛しい天使。

これを幸せと呼ばずに、なんと呼べば良いのか。

翔は再び夜空を仰いだ。


des jours du petit bonheur
小さな幸せの日々